■一言解説

図1に示したように、ある固定された観測点において気温を観測しているとする。太陽放射などによるその場での加熱がないと仮定し、風向きは西、気温分布は西で低く東で高いとする。すると、ある時刻t
0では観測点の気温は18℃である。しかし、冲時間後には観測点より西にあった冷たい空気が西風によって運ばれるため、気温分布は変化し観測点の温度は14℃になる。このように風による温度変化割合のことを特に「温度移流」という。これは温度に限らず、水蒸気量など他の物理量でも構わない。そして、風による物理量の変化を一般的に「移流」という。
■詳解
この言葉を具体的に説明する前に、知って欲しい概念がある。例えば、「気温の時間変化」を考えるとき、その考え方には2通りある。1つは、学校の実習やアメダス等で実際に計測するように、ある決められた地点、高度で気温を計測して、その時間変化を考える方法。こちらはごく一般的で、一般の方のほとんどが「気温の時間変化」と聞けばこちらの考え方を想像するであろう。それと別な考え方として、ある空気塊に注目し、その空気塊の気温変化を考えるという方法がある。空気塊はもちろん時間が経つにつれて、風に流され移動したり、気圧変化で膨張収縮したりするが、それに構わず追跡して常に同じ空気塊の気温を測定し続け、その気温変化を考えるという方法である。気温でなくても、水蒸気量や運動量など別の物理量に置き換えても、その時間変化に対してこの2通りの考え方ができる。前者の考え方を「オイラー的な方法」と呼び、時間変化は方程式の中で偏微分記号で表され、この変化を局所変化と表現する。後者の考え方は「ラグランジュ的な方法」と呼ばれ、時間変化は方程式の中で全微分で表される。オイラーやラグランジュとは数学者の名前に由来している。気象学では、空気の運動や物理量の変化を考える際に、この2通りの方法を区分けして使っている。
これを踏まえて「移流」について温度の変化を例に挙げて説明しよう。ある時刻t
0において、ある地点(χ
0, y
0, z
0)にあった空気塊の温度がT
0であったとする。この空気塊がδt時間に(χ
0+δχ, y
0+δy, z
0+δz)という地点に移動し、その間に空気塊自身の温度がδTだけ変化したとする。ここで、温度Tは空間(χ, y, z)と時間tの関数であろうから、δTをテイラー級数に展開すれば、(1)式を得ることができる。
| (1) |
(1)の両辺をδtで割って、δt→0の極限をとると、ここでの温度変化はある空気塊を追跡するラグランジュ的な方法に基づいているので、左辺は温度Tの全微分の形式で表され、式(2)のようになる。
| (2) |
そして、右辺第一項には、温度の時間変化が偏微分の形式で表された局所微分の項が見られる。よって、ある地点での温度変化(局所変化)は、式(2)の各項を移動させることにより、式(3)のように表すことができる。
| (3) |
右辺の第二項、風ベクトル
Vと温度勾配∇Tの内積に負の符号をつけたものが温度の移流と呼ばれるもので、流体が運動しているために、ある地点での温度が時間的に変化する割合を示す。たとえば風が低温の地域から高温の地域に吹いていると、-
v・∇Tは負であるから、移流項のためにある地点の温度は時間とともに下がることを意味する。このように式(3)は、ある地点の温度が時間とともに変化する割合は、空気塊自身が加熱冷却されて温度変化を起こす割合(dT/dt)と、移流による変化の割合の和であることを示す。特に温度に関して、移流項が負で時間とともにある地点の温度が下がる場合、そこには寒気移流があるといい、逆に移流項が正で時間とともにある地点の温度が上昇する場合には、そこに暖気移流があるという。一般的に、ある物理量の局所変化を考えた際に、風ベクトルと物理量の勾配の内積に負の符号をつけたものを移流というのである。
式(3)の関係は温度のみならず、他の物理量についても成り立つ。低気圧の発達と関係のある渦度についても、正の渦度移流などと表現する場合がある。気象学においては、「移流」という用語は頻繁に使われるので、その意味するところはしっかりと把握しておきたい。特別な場合として、時間の局所微分が考えている領域のどこでも0である場合を時間的に定常であるという。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 気象力学通論。 東京大学出版会, 249頁。
二宮 洸三, 1998 : 天気予報の物理学。 オーム社, 202頁。