エーロゾル
一言解説
大気中にはいろいろの化学成分と大きさをもつ微粒子が浮遊している。これを総称してエーロゾルと呼ぶ。その大きさはおよそ0.001μmから10μm程度である。雲の形成や降水には、エーロゾルの存在が欠かせない。

詳解
大気エーロゾルの粒径分布 エーロゾルは、その生成・成長過程と除去過程によって、大気中に安定に存在できる粒子の大きさが決まる。1μm以上の粒子は、重力の影響で大気中を沈降して大気中から除かれることが多い。0.1μm以下の粒子(エイトケン粒子と呼ぶ)は、帯電していることが多く、電気的に相互に引き合ったり反発しあったりするために衝突確率が高くなり大気中に存在する時間が短い。結果、0.1〜1μmの大きさの粒子が比較的長い時間にわたって安定して浮遊することになる。この大きさは、太陽放射の可視光の波長と同じ程度であるため、比較的効率よく太陽放射が散乱される。エーロゾルによる太陽放射の散乱は、地球の熱収支を左右する重要な因子であり、そのグローバルな分布状況や光学的な性質について盛んに研究されている。
エーロゾルは大気中に浮遊している間、周辺の気体成分との間にさまざまな物理的・化学的な関係を持つ。時には、それらのプロセスが環境や気候に大きな影響を与えることがある。極地方の大規模な成層圏オゾンの消失過程や東アジアでの大気中の硫黄や窒素化合物の収支などにおけるエーロゾルの役割は、その代表的なものである。
高度方向にエーロゾルの濃度変化をみてみると、おおよそ次のような傾向を指摘することができる(図2)。
エーロゾルの起源と種類
大粒子の高度分布 大気エーロゾルを起源や生成過程によって分類すると、大気中に粒子状態で放出された1次エーロゾルと大気中で気体から生成される2次エーロゾルに分けられる。1次粒子として代表的なものは、地表面から巻き上げられる土壌粒子、海水の飛沫、建造物や衣類の一部が機械的な力で剥ぎ取られたものなどが挙げられる。2次粒子では、燃焼過程で生じたガスが大気中に放出されエーロゾル化したものや光化学反応でつくられるミストなどが挙げられる。
また、人為起源と自然起源に分けることもできる。人為起源のものとしては、工場や家庭から出るスス粒子、化石燃料を使用する際に出る硫酸ミストなどがある。

放射と大気エーロゾル
球形のエーロゾルを仮定した場合、ミー散乱の特徴は、後方散乱に対して前方散乱がかなり大きいことである。また、ある角度に特徴的に散乱の強弱が生じたりする。散乱の角度依存性は、エーロゾルを構成する物質の屈折率の違いによっても生じる。しかし、エーロゾル粒子は球形とは限らない。
放射を考える上で注目されているのは、ススのように光を吸収する物質を含んでいるエーロゾルである。このようなエーロゾルは、散乱と吸収の効果を同時に示すために放射収支に与える影響は大変複雑なものになる。最近、地球温暖化に関係して、エーロゾルが太陽放射を散乱することによって生じる「負の放射強制力」に強い関心が寄せられている。東アジアでは、ヨーロッパや北アメリカと並んで硫黄酸化物の放出が大きいために硫酸塩エーロゾル濃度が高く、二酸化炭素の温室効果を抑制する効果が高い地域と考えられている。しかし、日本を含む東アジア・西太平洋地域は、アジア大陸起源の土壌粒子の濃度が著しく高い地域として知られており、硫酸塩エーロゾルのみならず土壌粒子の寄与や土壌粒子が表面反応を通して硫黄の循環に与える影響なども考慮した取り扱いが必要である。
雲は、太陽放射を散乱する極めて重要な物質である。雲が出来る際にエーロゾルが雲粒の核として働くことから、エーロゾルが雲形成を通して太陽放射を散乱する効果を発揮していると考えられる。

成層圏エーロゾル
地球上の広い範囲にわたって、対流圏界面の数km上空に、硫酸液滴を主成分とするエーロゾルの層が存在する。このエーロゾル層は、地上のエーロゾルが上空に運ばれたものではなく、対流圏から成層圏に拡散してきた硫黄酸化物が成層圏で酸化し、飽和蒸気圧の低い硫酸蒸気をつくるために、成層圏で硫酸液滴となったものが浮遊しているのである。このエーロゾルの原料となっている硫酸化合物は、海洋にすむプランクトンから放出されるものであり、プランクトンが地球上で活躍を始めた頃から成層圏でエーロゾルの生成があったものと考えられている。
大きな火山噴火によって大量の二酸化硫黄が成層圏に吹き込まれる。この二酸化硫黄も成層圏で酸化しエーロゾル化するために、噴火後まもなく成層圏エーロゾル量が急増する。最近では、1991年のフィリピンのピナツボ火山の噴火が気候や環境に影響をもたらしたものとして有名である。この噴火によって、地表面気温の有意な低下や成層圏オゾンの減少が生じた。
極の成層圏は冬になると著しく気温が低下するために、中・低緯度帯の成層圏ではガス状態である物質も粒子化するものが出てくる。南極の冬季は、硝酸蒸気や水蒸気がエーロゾル化して、多量の硝酸三水和物や氷晶などの粒子が発生する様子が観察されている。北極では、このような現象が生じる程、低温になることは少ない。極の冬の成層圏に発生するエーロゾルを、極成層圏雲と呼ぶ。これらのエーロゾルの表面では活発に化学反応が起き、結果水蒸気や窒素酸化物の濃度が著しく低く、塩素分子濃度が高い状態の大気が冬季に形成される。春になって、太陽放射が成層圏に届くようになると、不安定な塩素分子は光分解で化学活性の高い塩素原子になり急速にオゾンを破壊する連鎖反応を形成する。南極でオゾンホールが形成されるのはこの過程によるものが強い。

対流圏のエーロゾル
対流圏のエーロゾルの発生源は極めて種類が多い。代表的なものは、地表面、海面、火山、山火事、焼畑、生産活動の様々な工程、微生物活動などが挙げられる。人為的なものは近年特に多くなっている。
硫酸塩を主体とする硫酸塩エーロゾルの最も大きい発生源の1つとして、人間活動を挙げることができる。有力な自然発生源として考えられるものに、海洋のプランクトンからのジメチルサルファイドがある。ジメチルサルファイドは比較的短時間に大気中で酸化され硫酸エーロゾルとなるために、対流圏、とりわけ海洋上でみられる硫酸エーロゾルの有力な起源と考えられている。
焼畑は、農業形態の1つとして古くから行われてきているが、人口増加に伴いその規模が拡大し、東南アジアや南アフリカのそれは有機物を含むエーロゾルを多量に放出していると思われ、地球環境を考える上で無視できないほどになっている。
アジア大陸の砂漠地帯からもたらされる土壌粒子は、日本では「黄砂」として馴染み深いものである。この粒子については、人間の活動と砂漠化の関係を重視し、人為起源のエーロゾルとする考えもあるが、自然起源の対流圏エーロゾルの代表的なものとするのが一般的である。土壌粒子の表面は、ある程度の湿り気がある状態では活発に周辺大気中の化学物質と反応する場所になることが指摘されている。このため、大気中の硫黄酸化物や窒素酸化物が、鉱物粒子表面で反応しその生成物が鉱物粒子に乗って移動することが考えられる。大気中の硫黄や窒素の循環にも、鉱物粒子が大きな役目を果たすのではないかと考えられるようになった理由である。

参考文献
新田 尚, 伊藤 朋之, 木村 龍治, 住 明正, 安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。