■一言解説
数値予報では、大気の支配方程式に地上観測、高層観測(ゾンデ)、及び衛星観測で得られた現在の大気状態を初期値として与えて、将来の大気状態を算出している。天気予報が外れる原因としては、観測にはある程度の誤差が避けられないために初期値が不完全であること、大気の支配方程式が不完全であることが挙げられる。仮に、支配方程式が完全なものでも、初期値の僅かな誤差が時間を経るにつれて指数関数的に大きくなる。このことを考慮して、現在の数値予報では、僅かに違いのある複数の初期値から数値予報を行い、その結果を平均することで予報精度を向上させる試みを行っている。この手法のことをアンサンブル予報という。図1はアンサンブル予報の一例である。
■詳解
図1のアンサンブル予報の例で、細い実線は僅かな違いをもつ幾つかの初期値から数値予報を行った個々の結果、太い実線はそれらを平均したもの、そして薄い太線は実際に観測された変動である。この予報手段における基本理念は、初期値の誤差から生じる個々の決定論的予報のノイズの部分が、平均をとることにより減少し有意な情報(シグナル)が残るというもので、予測の自乗平均誤差を個々のそれと等しいか、より小さくできるとみなしている。
アンサンブル予報で用いられる、少しずつ異なる複数の初期値を作成する方法には、モンテカルロ法、時間ラグ平均法(日本の気象庁で採用)、成長モード養殖法、ロレンツ法などがある。モンテカルロ法は、ある時刻の解析値にランダムな誤差を加えて複数(かなり多く)の初期値を作成する。成長モード養殖法やロレンツ法は、急速に成長する誤差のみ選択的に取り出すための誤差を加えた2個程度の初期値を用いる。時間ラグ平均法では、ある時間間隔(たとえば12時間)で解析された一連の解析値を複数(かなりの数)の初期値として、目的とする予測時刻まで時間的数値積分を行い、(したがって、それぞれの予報の予測時間が異なる)予測値を統計的な平均処理する。現在は、世界の数値予報センターでこうしたいろいろな方法が試みられているが、近い将来かなりしぼられてくるものと思われる。実際に、今現在の1ヶ月予報はアンサンブル予報によって出されている。3ヶ月予報にも従来の統計的な予報手段に加えて、アンサンブル予報が取り入れられている。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 一般気象学[第2版]。 東京大学出版会, 320頁。
天気予報技術研究会編集, 1994 : 最新 天気予報の技術。 東京堂出版, 282頁。