■一言解説
北極振動(Arctic Oscillation:AO)とは、図1のような北極域と中緯度地域との間の気圧の振動を表す変動パターンである。北半球(南半球でも同様だが)の上空の気圧配置を見ると、低緯度側は気圧が高く、高緯度側は低くなっており、極を中心とした低気圧が解析される。この低気圧は年々強弱を繰り返しており、この変動が北極振動である。冬季に、この低気圧が強いとジェット気流の位置が高緯度側に移り強くなる。寒気が極周辺に集中的に蓄積され、低緯度側には南下しにくいため暖冬となる。逆に低気圧が弱いとジェット気流は南下、チベット高原、ロッキー山脈などの山岳によって南北に蛇行し、それによって寒気も低緯度に降りやすくなり寒くなる。
■詳解
Thompson and Wallance(1998, 2000)は、海面気圧場のEOF第1主成分として得られる図1のパターンをAOと命名した。彼らは、特に冬季にはAOが対流圏から成層圏にまで及ぶ極渦の強弱を表すもので、ユーラシア北部の広大な領域に地上気温の変動をもたらすことを示し、実体のある重要な変動パターンだと主張した。同時期に、Gong and Wang(1999)は南半球における極渦の強弱を示すパターン(南極振動)を発見したが、そのパターンとAOの形態的・力学的共通性に着目したWallance(2000)は、両者を各半球の「環状モード(annular mode)」と名付けた。定常ロスビー波に伴うとされる既知のテレコネクションパターンとは対照的に、両者とも緯度円を取り巻くように環状な循環偏差を伴う東西一様性の高い大気固有の変動パターンと見なした。南半球の極渦変動において移動性高低気圧活動との相互作用が重要なのとは対照的に、北半球ではプラネタリー波の上方・水平伝播と東西平均流(極夜ジェット)との相互作用が重要となる。
AOは、上は成層圏から下は地上の天候や海洋・海氷・雪氷の変動まで、北半球中高緯度の広大な領域において、気候系の様々な構成要素の変動に影響を与えうる。実際、Wallanceらは、近年ユーラシア大陸の温暖化傾向や北極上空の極渦の強化(寒冷化)、オゾン総量の変化傾向等が、AOの変化傾向で説明できると主張した。大循環モデル実験を用いた温暖化実験でも、モデルに成層圏をきちんと組み込むとAOの応答が顕著になり、北半球高緯度の地表付近の温暖化が強化されるという結果が得られている。
AOに伴う変動の寄与は成層圏では圧倒的で、地上気圧変動への寄与も他の偏差パターンをしのいでいる。しかし、定常ロスビー波の水平伝播の導波管となる対流圏中・上層では、いわゆるPNAパターンとその北大西洋への伸長に伴う波状偏差の寄与がAOの寄与を凌駕する。AOを取り巻く問題としては、AOとNAO(北大西洋振動)との関係である。前者は後者を含んだものなのか、両者は別の現象なのか、今現在も議論が続いている。