■一言解説
高層天気図で等高度線が波打っていることからわかるように、偏西風帯は絶えず南北に波うっており、いろいろな波長(気圧の谷から次の気圧の谷までの距離)をもつ波動が含まれている。この波動のことを傾圧不安定波と呼んでいる。傾圧大気(等圧面上で温度傾度がある大気、中高緯度の大気は典型的に傾圧大気である)中で時間とともに振幅が増大する波動という意味である。図1は、発達中の傾圧不安定波の鉛直構造である。
■詳解
どうして傾圧不安定波は起こるのか?一般的に状態が不安定なときにはその不安定な状況を解消して、安定な状況に戻そうとして運動が起こる。例えば大気の状態が条件付不安定なときには、上下の空気を転倒させて安定な成層にするために積乱雲が発達する。傾圧不安定というのは本質的には偏西風が高度とともにあまりに急激に増加すると、そのような状況は不安定で。東西方向に数千kmの波長をもつ波動を起こすのである。東向きの地衡風速が高度とともに増加する割合は南北方向の水平温度傾度に依存する(温度風の関係)。仮に、傾圧不安定波が起こらなかったらどうなるか。ジェット気流の赤道側では吸収する太陽放射エネルギーが赤外放射で出て行くエネルギーより大きいから、大気の温度は上昇しようとする。極側では逆で大気の温度は下がろうとする、つまり南北の温度傾度は増大する。その温度傾度がある限界を越すと、大気はその状態に耐え切れず波動を起こして温度の南北傾度を弱めようとする。その波動が傾圧不安定波である。
傾圧不安定波による熱輸送
傾圧不安定波による熱の輸送によって、南北の温度傾度が弱められていることは以下のように説明できる。顕熱C
pTの南北輸送を考えよう。Tは温度、C
pは定圧比熱である。ある地点、ある高度において波動に伴う風の南北方向の成分をv、東西方向に1波長について平均した温度からのずれをT'とすると、その場所での単位時間・単位質量あたりの波動による北向きの熱輸送量はC
pvT'となる。ある水平面での等圧線が図2のような三角関数で与えられたとする。風が地衡風であるとすれば、風の南北成分は、気圧の谷から下流の気圧の尾根までは南、気圧の谷から上流の気圧の尾根までは北である。
ここに重なる等温線が西側に位相90°ずれている場合(図2)、T'は気圧の谷から下流の気圧の尾根まで全て正(相対的に暖気)であり、南風域であるから熱を北に輸送していることは明らかである。逆に、気圧の谷から上流の気圧の尾根まではT'は負、北風域で寒気が南下している。これも、熱の北向き輸送と同じ効果がある。温度場の位相が東側に90°ずれていたら、熱は南に輸送され、位相のずれが無ければ熱輸送は0である。
傾圧不安定波による運動量輸送
傾圧不安定波は、熱だけでなく東向きの運動量の南北輸送もしている。空気の密度をρ、東向きの風速をuとすれば、単位体積あたりの運動量はρuであるから、波による高緯度方向の輸送量ρuvを1波長分積算すればよい。波の形が図3(a)のように気圧の谷に対して左右対称では0になるが、高層天気図でよくみられるように、気圧の谷が北東から南西方向に走っていれば、東向きの運動量は低緯度に輸送される。こうして傾圧不安定波は亜熱帯ジェット気流の西風運動量を輸送して、中緯度の偏西風を維持する役割を果たしている。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 一般気象学[第2版]。 東京大学出版会, 308頁。