■一言解説

ENSOとはEl Nino Southern Oscillation(エルニーニョ・南方振動)の略で、赤道太平洋の現象であるエルニーニョとそれに密接に関係する大気現象である南方振動の2つの現象を総称した呼び名である。
まず、エルニーニョ現象とは、図1に事例を示したように、ペルー沖の赤道東部太平洋の海面水温が平年に比べて2〜3度以上高くなる現象のことを言う。ここで注意すべきは、海面水温自体は赤道西部太平洋の方が高いということ、エルニーニョ現象はあくまで海洋の現象ということである。
次に、南方振動について説明する。図2には、太平洋西部(ダーウィン:オーストラリア北部)と中央太平洋に位置するタヒチ島の地上気圧の差(南方振動指数と呼ばれている)と熱帯東部の海水温度(破線)を示している。南方指数(実線)が海水温度と良い相関関係を持って数年おきに大きく変動していることがわかる。これは西太平洋と中央太平洋で地上気圧がシーソーのように東西振動していることを示す。この赤道域における地上気圧の東西振動のことを南方振動と呼ぶ。
図2より、海面水温の変動現象であるエルニーニョと大気の現象である南方振動が関係をもっていることが明らかである。
■詳解
エルニーニョ現象

熱帯太平洋での海面水温をみると、西部では年中29℃を越えるのに対し、東部では深海からの湧昇やフンボルト寒流によって25℃以下になっている。海面水温は、季節変化をしており、7月には南東貿易風の北上によってペルー沖では風が強まり、寒流や湧昇も強まって海面水温は低下し、逆に12月には風、寒流ともに弱まり、北から暖流が流れ込んで海面水温は高くなる。この暖流のことを、地元の漁師がクリスマスにちなんでエルニーニョと呼んだ。
20世紀になって、南アメリカ沿岸近くの海面水温の上昇は、赤道沿いに東太平洋に広く広がっていることがわかった。この季節的な温度上昇は、数年程度の間隔で、平年より2〜3℃高くなることがある。図1は1997〜1998年の海面水温の平年偏差を示しており、このときは海面水温の上昇が5℃近くになった。図2の実線は赤道東部太平洋での海面水温の偏差の時系列を示しており、海面水温の上昇がいくつかの年に見られる。そして、暖水は長期間(1年程度)維持され、世界的な異常気象をもたらすこともわかってきた。
南方振動
大気と海洋は相互に密接に作用しあっており、大気は風の応力を通して海洋に運動量をあたえ、海洋は大気境界層の渦乱流(対流)による鉛直輸送を通して大気に顕熱・潜熱をあたえている。その結果、暖かい海面上に上昇気流が生じて低圧部となり、降水が起こる。エルニーニョ年には、海面水温が平年より大きく変わることから、赤道付近での低圧部の位置も変動する。具体的には、暖水域が東に広がることから、低圧部も東に移動する。このような、大気の変動は19世紀末にはわかっていた。
図2に示すように、赤道域の海面水温変動と南方振動は密接に関係しあっている。具体的には、ペルー沖の海面水温が上(下)がれば、南方指数は下(上)がっている。
エルニーニョ発生のメカニズム
エルニーニョ発生のメカニズムについては、完全にはわかっていない。以下に述べるような繰り返し起こるサイクルによるとする考えが有力である。
2種類の波動を考える。1つは赤道で振幅が最大で東向きだけに伝播するケルビン波。もう1つは、赤道よりか少し離れた(5°くらい)ところで最大で西向きだけに伝播するロスビー波。この2つの波は、波長が1万kmにもなる惑星規模の波動である。波動とともに、温度躍層は上下に動く、温度躍層が上(下)がれば温度躍層は浅(深)く、水温が低(高)い。西部太平洋で、海面水温が高く、東部で低ければ、西部での対流活動活発化に伴い東風が強くなる、東風偏差がみられる。この東風偏差は、暖水を西部太平洋に集め、温度躍層を押し下げるロスビー波をつくる(図3@)。この波は西進し、太平洋西岸で反射され、ケルビン波となって赤道を東進する(図3A)。この波も温度躍層を押し下げる役割をする。つまり暖水が東に移動する。この波が東部太平洋に達すると、エルニーニョの発生につながるのである(図3B)。
エルニーニョになると、西の海面水温は相対的に東より低くなり、東風が平年より弱まり、西風偏差を生じる。西風偏差は先とは逆で、温度躍層を押し上げる働きをするロスビー波を形成する(図3C)。この波は、太平洋西岸で反射されケルビン波に転じ、温度躍層を押し上げながら東進する。低温水域が東に移動する。こうして、平年の状態に戻る(図3D)。
エルニーニョと異常気象
通常、熱帯太平洋の西部は海面水温が高く、対流活動も大変活発な領域である。しかし、エルニーニョ年には、暖水域が東部に広がり、対流活動域も東に移動するため、西部太平洋域(インドネシア・オーストラリア)では、旱魃になりやすく、中央太平洋では降水量が増大する。南アメリカの西岸では大雨が発生しやすい。影響は赤道域にとどまらず、対流活動域の変動によって励起されたロスビー波によって遠方にまで及ぶ。例えば、日本の暖冬・長梅雨・冷夏、インドモンスーン域での少雨、アラスカ・カナダの暖冬、アメリカ南東部の低温などが挙げられる。
参考文献
新田 尚, 伊藤 朋之, 木村 龍治, 住 明正, 安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。