■一言解説
日本付近に、9月の中下旬を中心として、梅雨の時期のように停滞前線が東西に伸び数日〜1週間程度にわたって悪天が続くことがある。この時期のことを「秋雨」、悪天をもたらす停滞前線を「秋雨前線」と呼ぶ。秋雨前線は、台風が日本に接近する際にもしばしば出現し、大雨をもたらすことがある。右の天気図は、2000年9月11日のものであるが、日本海沿岸に沿って前線が伸びている。これが秋雨前線である。この日の夜、南海上の台風の影響もあって、東海地方では記録的な豪雨となった。
■詳解
秋雨前線は、梅雨前線と同様に小笠原気団という高温多湿な海洋性熱帯気団の北縁に沿って形成される亜熱帯前線の1種である。
何故、9月に日本付近に再び前線が停滞するのか。まず、第1の理由として、9月でも熱帯西部太平洋域の熱帯収束帯の活動は活発な状態を継続しているが、その位置は真夏に比べて南下するため、それに伴って太平洋高気圧も南下し、日本付近が梅雨と同様に高気圧の北の縁に位置するため。第2に、ユーラシア大陸内部はすでに冷え始め、高気圧が形成され、日本付近に比較的冷涼な空気を送り込むことで、太平洋高気圧からの高温湿潤な空気との間に前線を形成しやすい環境を作り出すため。この2つが挙げられる。
次に、何故梅雨のように長続きしないのか。それには、前線に向かって南から送り込まれる水蒸気量が関係している。太平洋高気圧は、梅雨期と同様の強さを保っているため、高気圧から前線に向かう湿潤気流の強さは梅雨期と大きく変わらない。しかし、梅雨期には活発であったインドモンスーン地域からチベット高原の南を迂回し、中国南部を通って前線に流れ込む湿潤気流が、インド夏季モンスーンが終わってしまった9月頃にはすっかり消えてしまうのである。その分の水蒸気供給が絶たれるために、前線の活動自体が梅雨の時期に比べて弱まり、結果として梅雨ほど悪天が長続きしないのである。
ところで、秋雨前線という言葉は、台風情報の時に頻繁に聞かれる言葉である。「台風が前線を刺激し、大雨になる」のような表現を耳にしたことがあるだろう。これは一体どういうことなのだろう。右の天気図は、2000年9月11日午前9時のもので、正にそのような状況を表している。大東島付近に台風があって、日本海に沿って秋雨前線が停滞している。そして、11〜12日にかけては台風から遠く離れた東海地方で記録的な豪雨が発生した(東海豪雨と呼ばれる)。このとき台風は前線にどのような影響を及ぼしているのか。まず、台風の風は半時計周りであり、台風の東側では南風が吹いていることになる。つまり、台風が日本付近に接近すること、特に南西から接近する場合、太平洋から日本付近に流れ込む水蒸気量の増加を意味する。水蒸気輸送量の増加は、前線付近での雲の発達、前線活動の活発化につながり、大雨をもたらす結果となる。台風が遠くに位置していても、台風東側の南からの湿潤気流の強化を通して、前線帯で大雨をもたらす。それが「台風が前線を刺激し、大雨になる」のメカニズムである。
参考文献
新田 尚・伊藤 朋之・木村 龍治・住 明正・安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。