■一言解説
北半球では気圧傾度力が働いていないとき、空気塊は水平面上においてコリオリ力の影響だけを受けて時計回りに回転する。空気塊が1周するのに必要な時間は、空気塊の速度に関係なくT=π/Ωsinφ(Ω:地球の自転の角速度、φ:緯度)になる。このような空気塊の運動のことを慣性振動という。慣性振動は海中でよく観測されており、図1は日本近海で測定された慣性振動の1例であり、海中の浮きの軌跡を示している。これより、浮きが円を描きながらその場の一般流に流されている様子がわかる。
■詳解
慣性振動の導出

地衡風を
vgと書き、地衡風からのずれを
v'で表すと、運動方程式は、式(1)で表される。
| (1) |
Vgがd
Vg/dt=0を満足する場合には、式(1)より
v'を決める方程式(2)が導ける。
| (2) |
上式の2番目の方程式に複素数
iをかけ、1番目の方程式に加えると、式(3)の微分方程式が得られる。
| (3) |
この微分方程式の解は、次のように置ける。
| (4) |
ここにu
0'とv
0'は、それぞれt=0におけるu'とv'の値である。この解を、実数部分と虚数部分に分けると、それぞれ式(5)のように表される。
| (5) |
この式から、ベクトル(u
0',v
0')とベクトル(u',v')が同じ大きさであることがわかる。圧力傾度力も摩擦力も働いていないのだから、運動エネルギーが保存されるのは当然である。
この運動に伴う流体粒子の軌跡は、dx/dt=u'、dy/dt=v'の右辺に式(5)で与えられるu'、v'を代入し積分することで得られる。その結果、流体粒子は円軌道を描く。その曲率半径Rはベクトル(u',v')の大きさVに比例し、R=-V/f
0で与えられる。このことは、遠心力とコリオリ力が釣り合っているとして、式(6)からすぐに導くことができる。
| (6) |
しかし、流体粒子が円を一周するのに要する時間(周期)は式(7)で表され、Vに依らず一定である。
| (7) |
この周期はフーコー振り子が1回転するのに要する時間、1振り子日の半分である。この運動を慣性振動であり、Rを慣性半径と呼ばれることがある。

慣性振動は、海面に強い風が吹いた後の海中でよく観測される。ふつう深さが500〜1000m以深の海洋中では流れが弱い。その弱い流れを測定する方法の1つは、海中のある深さに浮力がちょうど0になるようにした浮きを放し、流れのままに移動する浮きの位置を追跡することである。図1に示したのは、日本近海で測定されたものの1例で、浮きが慣性円を描きつつ、一般流に流されている様子がわかる。
図2は、エネルギー密度の一例である。これは、流れの運動エネルギーが、どのような振動数(あるいは周期)をもつ運動にどれだけ配分されているかを示す。北緯13度での慣性振動の周期は53時間であるが、半日周期の潮汐とともに、慣性振動の周期をもつ運動に多くの運動エネルギーが占められていることがわかる。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 気象力学通論。 東京大学出版会, 249頁。