■一言解説
地球が自転していないときに発生する波は、重力波と呼ばれる重力のみを復元力とする波である。その伝播速度cは、重力加速度をg、流体の深さをHとしたとき、c=(gH)
1/2となる。しかし、ここに地球の自転が加わると、コリオリ力が波の伝播速度に影響を与える。コリオリパラメータをf
0とすると、波の伝播速度c=±(gH)
1/2(1+f
02/gH|
k|
2)
1/2となり、重力波よりも大きくなる。このようにコリオリ力の影響を受けた重力波のことを慣性重力波という。
■詳解

図1は海底の深さが一様な海洋における波の様子を模式的に示したものである。Hは平均的な深さで、ηは平均面Hからのずれを表している。(海水を空気と見立てれば、大気においても同様に考えられる)このような海洋における運動を記述する運動方程式系は、運動方程式と質量保存則から成り、以下のように記述される。
| (1) |
| (2) |
この(1)、(2)の方程式は非線形であり、解を解析的に求めることは特別な場合を除いて困難である。そこで、各変数u,v,ηに関して平均からのずれ、微小変動を考える。しかも、u,vに関してはその平均値をゼロとする。そのようにして、(1)、(2)を線形化(ここに記述した方法を摂動法という)すると、方程式系は以下のように記述できる。
(3)〜(5)の方程式系に関して、コリオリパラメータf=f
0、H=一定と仮定をすると、以下のように記述できる。
式(6)、(7)のvを消去すると式(9)が、またuを消去すると式(10)が得られる。
| (9) |
| (10) |
式(9)をxで微分し、式(10)をyで微分し、両辺を式(8)に代入して、∇・Vを消去すると次式が得られる。
| (11) |
式(11)はηを決定する式であり、ηが決定されれば、それを式(9)、(10)に代入して、uとvを求めることができる。式(11)の解として、
| (12) |
という形を考える。式(12)が表すものは、kx+ly-σt=一定の直線上では、波の位相は一定で、これを波面という(図2)。k及びlはそれぞれx及びy方向の波数ベクトルの成分である。波数ベクトルの絶対値を|
k|とすると、式(12)で表される波動の波長は2π/|
k|で、波面が
kの方向にc=σ/|
k|の位相速度で伝播する波を示している。

式(12)を式(11)に代入すると、
| (13) |
が得られる。この式から、σ=0という根がまず得られるが、これは全く無意味なものではない。というのは、σ=0のとき式から、
| (14) |
という解が得られるからである。これは、地衡風の関係を表している式である。
σがゼロでないときには、
| (15) |
が得られる。式(15)の場合、波の位相速度は、
| (16) |
である。回転地球上の長波長(静力学平衡が成り立つような波長の長い)重力波の伝播速度は、(gH)
1/2ではなく、式(16)のようにf
0によって影響を受けることを示す。この波のことを慣性重力波という。式(15)によれば、慣性重力波のσは常にf
0よりも大きいし、慣性重力波の位相速度は重力波より大きい。また、慣性重力波の位相速度は、波数ベクトルの絶対値にのみ依存し、その成分(k,l)に依らない。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 気象力学通論。 東京大学出版会, 249頁。