■一言解説
寒冷前線や温暖前線などは、その周辺の鉛直循環によってカタ前線とアナ前線に分類される。「カタ」と「アナ」とは、それぞれdownとupを表すギリシア語の接頭語である。図1には、寒冷前線を例に挙げて両者の違いを示している。まず、純粋なカタ前線は前線面に沿って比較的温暖な空気が下降している前線であり、逆にアナ前線は比較的温暖な空気が前線面を上昇する前線である。
■詳解
カタ前線とアナ前線の関係
図1から読み取れることであるが、アナ前線の方が、地上付近の温暖湿潤な空気が上層高く持ち上げられるので、強い降雨をもたらす。温暖前線というと、「層状雲でしとしと雨」というイメージが持たれがちだが、アナ型の性質の強い温暖前線は対流雲を伴って激しい雨をもたらすこともある。また、前線のすべてがカタ前線、アナ前線のどちらかに明確に分類できるわけではなく、その中間的な性質をもつ前線も存在する。一般的に、アナ型の寒冷前線の前にはカタ型の温暖前線が、カタ型の寒冷前線の前にはアナ型の温暖前線が存在している。
アナ型の寒冷前線が見られる大気場

図2(a)には、アナ型の寒冷前線が形成されやすい時の、地上の寒冷前線と低気圧の周辺で低緯度から高緯度への暖気を運ぶ気流である温暖コンベアーベルト(Warm Conveyor Belt:WCB)の配置を示している。また、(b)にはその鉛直断面を示してある。一般的に、地上の寒冷前線の前方には湿球温位θ
wの高い温暖湿潤な空気があり、その同じ位置に南西風の下層ジェットがある。そして、寒冷前線に沿って幅が狭い対流性の降雨帯があり、時にはその雲頂高度が10km以上に達することもある。対流雲の背後(西側:図では左側)には、楔形に流れ込んだ寒気の上を暖気が上昇する。ここでは主に層状性の雲から成る幅が広い降雨帯が形成され弱〜並の雨が降る。
カタ型寒冷前線とスプリット前線

図3に、カタ型の寒冷前線が形成されている場における大気場や前線の様子を示した。寒冷前線の前方に存在している温暖前線は一般的にアナ型の性質を持つ。図2に示したアナ型寒冷前線が形成されやすい場に比べて、上層及び中層の風は強く、地上の寒冷前線や温暖前線を追い越していく。よって、湿球温位(θ
w)の低い乾燥した空気が相対的に寒冷前線面を吹き下りていく形になる。さらに、乾燥した空気は寒冷前線の前面へ数10km〜200km程度まで吹き出し、そこに存在するWCBの上を這い上がる。すると、この乾燥空気とWCBが接するところでは、湿球温位の傾きが大きくなる。つまり一種の前線が形成されることになる。この前線のことを上層寒冷前線(Upper Cold Front:UCF)と呼ばれる。寒冷前線という名がついているが、温度傾度よりも湿度(湿球温位)傾度が大きい前線である。この上層寒冷前線と地上の寒冷前線は異なる位置に存在しており、構造上直接なつながりはない。そこで、この両者を合わせてスプリット前線と呼ぶ。図3(b)には、スプリット前線に伴う降水の分布を示したものである。WCBの空気は温暖湿潤(湿球温位が高い)であり、その上空の空気は乾燥しているので、大気は不安定で対流雲が発達しやすい。これは、地上の寒冷前線に伴う対流性降雨域の前方に、それとは離れて別の対流性の降雨帯があることを意味する。
参考文献
小倉 義光, 2000 : 総観気象学入門。 東京大学出版会, 289頁。