北大西洋振動(NAO)
一言解説
500hPa高度偏差とNAOインデックスの時系列との相関でみる各月のNAO 北大西洋振動(North Atlantic Oscillation:NAO)は、北半球でのテレコネクションの1つである。図1に示したように、冬季を中心に北大西洋上のアイスランド低気圧とアゾレス高気圧がともに強まったり弱まったりする大気のシーソー現象のことを言う。ヨーロッパの冬の天候を支配する現象であるため着目されている。「NAOが強(弱)まる」とは、アイスランド低気圧とアゾレス高気圧の双方が強(弱)まり、偏西風が平年より強(弱)まることを意味する。そして、NAOが強(弱)い時は、ヨーロッパやアメリカ東岸の冬季は温冬(寒冬)、カナダ北部やグリーンランドでは寒冬(暖冬)となる傾向にある(図2参照)。

詳細
NAOインデックスと天候への影響
NAOの強度を示すためのインデックスがある。このインデックスは、このテレコネクションの作用中心であるアイスランド低気圧の中心付近にあたるグリーンランド、アゾレス高気圧の中心付近、2地点での海面気圧の差を基に定義されている。NAOインデックスが正であるときは図1で示されるように、アイスランド低気圧、アゾレス高気圧ともに強い状態であり、中高緯度間の気圧傾度と偏西風が平年より強まる。また、冬季に大西洋を横断する低気圧が発達しやすく、その経路は平年より北側を通る。その結果、図2や図3に示したようにヨーロッパでは多雨で暖冬となり、カナダ北部やグリーンランドでは乾燥した厳寒となる。アメリカ東部も同様に温暖多雨の冬となる。
逆に、NAOが負のときは、アイスランド低気圧とアゾレス高気圧がともに弱く、中高緯度間の気圧傾度が小さくて偏西風が弱くなる。そして大西洋を横断する低気圧も発達しにくく、その経路は東西方向に近くなる。結果、地中海地域には湿潤な空気が流れ込み、北ヨーロッパには寒冷な空気が流れ込みやすくなる。アメリカ東岸地域では寒波が到来しやすく、雪の多い天候となる。対して、グリーンランドでは温暖となる。
つまり、NAOの負と正とで、ヨーロッパ・アメリカ各地域での影響は反転する。NAOの日本に対する影響としては、NAOが正のときはオホーツク海高気圧が強まり冷夏に、負のときには逆に弱くなって猛暑になるという報告がある。

NAOの変動特性
図4は、1950年から最近2006年1月までの、NAOインデックスの時系列を表している。この図から、NAOには明らかに季節変動または年々変動があることがわかる。そして、NAOインデックスが正を示す期間、負を示す期間は共通して数ヶ月は持続している。この変動に加えて、Hurrell(1995)やChelliah and Bell(2005)は冬季にNAOには数10年周期の変動があることを示している。例えば、1950年代半ばから1979/80年にかけての24年ほどの間は負の状態が現れることが多く、それ以降から1994/95年までの約15年間は正の状態が現れることが多くなった。近年では、再び負の状態が多くなりつつある。
NAOインデックスと地上気温偏差との各月の相関図 NAOインデックスと降水量偏差との各月の相関図
1950年から2006年1月までのNAOインデックスの時系列 (注)図2〜4は、NOAAのウェブページ「http://www.cpc.ncep.noaa.gov/」より引用改変

NAOの研究の歴史と将来
NAOは、ENSOに次ぐ大規模な気候変動の卓越モードの1つである。NAOの存在は、19世紀後半にはデンマークとグリーンランドでの気温のシーソー関係として知られていた。
NAOに関しては、100年以上にわたって研究がなされているが、その基本的メカニズムについては謎の部分が多い。明確になのは、NAOとENSOの関係は弱いこと、現在の気候モデルの幾つかは、1季節前にNAOの発生予報をすることができることである。逆に、謎な点は、何故NAOが最近30年間において正の傾向を示すようになったのか、それが人為的な地球温暖化と関係あるのか、それともただの自然変動なのか(1950年後半〜1970年代後半まではNAOの負のときが多かった)、ということである。現在、陸面-大気気候モデルなどを用いて盛んに研究されている。

参考サイト
NOAAウェブページ:http://www.cpc.ncep.noaa.gov/