■一言解説

総観規模現象に関しては、空気塊に働く上向きの気圧傾度力と重力が釣り合っているとする静力学平衡がよい近似で成り立っているとみなされる。それはある地点における高度と気圧が常に1対1の関係にあることを意味する。そのため、直交座標系における鉛直座標として高度zの代わりに気圧pを用いることができる。鉛直座標に気圧pを用いた座標系を気圧座標系、p座標系及びp系と呼ぶ。ちなみに鉛直座標に高度zを用いた座標はz系と呼ぶ。総観気象学ではほとんどの場合p系が用いられる。その理由は、現在の高層気象観測では、気球がある気圧に達した際の気温や湿度などを測定し、直接に等圧面に記入した高層天気図を描いているからである。また、p系での連続の式が非圧縮流体と同様の簡単な形で表現できることもp系が用いられる理由の1つである。
■詳解
等圧面というのは水平面に対して傾いているのが一般的であるが、p系においては、水平座標はそのままz系と同じ(x,y)を用いたまま、鉛直座標にpを用いているので、等圧面が(x,y)平面に対して傾くことはない。そして、p系ではある時刻におけるある等圧面の高度zは、各地点(x,y)について決められる。高度zはx,y,p,tの関数である。
気象のあるスカラー物理量φ (気温や風速など)を考える。z系ではその空間及び時間分布がφ (x,y,z,t)として与えられていたが、p系ではφ (x,y,p,t)として与えられる。p系におけるφの微分はどう表現されるのか。まずx,y,tを固定してφの鉛直方向の微分をとる場合には、zはpの関数であるから、
 | (1) |
によって、∂φ /∂pを∂φ /∂zと関連付けることができる。いま、静力学平衡を仮定しているので∂p/∂z=−ρgである。

次に、φ のxとyの微分について考える。今後、z系の微分とp系の微分を区別するために、それぞれにz及びpの添え字をつけることにする。図2において、点Aにおけるφ の値をφ
Aと表し、点Bは点Aと同じ水平面上で凅だけxが増した点であるとすると、(∂φ /∂x)
zはφ
B−φ
Aを凅で割った値の凅→0における極限値である。一方、(∂φ /∂x)
pはxの増加に対する等圧面上のφ の増し分であるから、φ
C−φ
Aを凅で割った値の極限値である(点Cと点Aの距離で割るのではない)。図2で明らかなように、
 | (2) |
である。凛は点Cと点Bの高度差で、凛/凅は等圧面の傾きを表している。ここで凅→0として式(2)の極限をとり、式(1)を用いると、
 | (3) |
が得られる。同様にしてyの微分に関しても、
 | (4) |
となる。ここで∇
pを(∂/∂x)
pi+(∂/∂y)
pjで定義された2次元の微分オペレーターとすると、式(3)と(4)は、
 | (5) |
という1つの式にまとめられる。
最後にφ の時間微分を考える。図2の点Aにおいて時刻0と微小時間冲後のφ の値をそれぞれφ
A(0)とφ
A(冲)と書くことにすると、z系の(∂φ /∂t)
zは、φ
A(冲)−φ
A(0)を冲で割った値の極限値である。ところが冲の間に等圧面は動くため、地点(x,y)の上空にあった点Aはp面の動きにつれて冲後には点Dに位置する。そのためp系での局所的時間微分(∂φ /∂t)
pはφ
D(冲)−φ
A(0)を冲で割ったものに相当する。そして、
 | (6) |
という関係があるから、冲→0の極限では、
 | (7) |
となる。(∂z/∂t)
pはその地点で等圧面の高度の時間変化割合である。式(7)が(∂φ /∂t)
zと(∂φ /∂t)
pの関係を与える。
ここで、
vhを東西成分uと南北成分vを成分とする水平風ベクトルと定義する。
こうして、z系の個別時間微分(ラグランジュ的微分)、
 | (8) |
の各項をp系に変換すると、
 | (9) |
というp系での個別時間微分が得られる。
特にφ=pとすると、(∂p/∂t)
p=0、∇
pp=0、∂p/∂p=1であるから
 | (10) |
が得られる。着目している空気塊が同じ等圧面上にいる限りはdp/dtは0である。よって、dp/dtは空気塊が等圧面から離れていく速さを表し、記号ωで表現する。式(10)を(9)に代入すれば、
 | (11) |
となり、z系の個別時間微分の式(8)と形式的に同じになる。この意味で、ωをp系における鉛直速度ということで鉛直p速度と呼ぶ。鉛直p速度は、数値予報の資料で空気塊の上昇、下降を表す際に用いられている。
参考文献
小倉 義光, 2000 : 総観気象学入門。 東京大学出版会, 289頁。