■一言解説
北極や南極の成層圏や中間圏では、冬季(北極では1月あたり、南極では7月あたり)になると、太陽からの日射が全くないために大気の温度が低緯度側に比べてかなり低くなる。温度風の関係から、北半球では高温域を右側に、南極では高温域を左にみるように風が吹く。そのため、極を中心として西風が吹き、低気圧性の循環が形成される。この極を中心として、極夜の冬季に形成させる極を中心とした低気圧循環のことを極夜渦という(図1参照)。極渦と同等に用いられることも多い。
また、極を中心とした大気の低気圧性循環の中で、最も風が強い部分のことを極夜ジェットという(図3参照)。
■詳解
極夜渦
極夜渦は、極夜のため、太陽放射を受けない極域の大気温度が低下することで形成される。よって、図1に北極、南極での1月と7月の成層圏下部に相当する10hPa面高度分布を示したが、冬季に当たる北極では1月、南極では7月の高度分布では極を中心とした巨大な低気圧が見られる。北半球では南半球と比較して、海陸分布や大規模山岳によってプラネタリー波が強く励起されて、成層圏や中間圏まで大きな振幅をもって伝搬する。このプラネタリー波のために、北半球では極夜渦が南半球よりも大きく変形する。夏季になると、逆に極を中心とした高気圧が形成され、全体的に東風が卓越する。これは、温度風の関係によるもので、夏季ににおいて極では一日中日射があり、オゾンの紫外線吸収による大気加熱によって周辺の低緯度側より高温となる。すると冬とは逆の空気の流れが生じることになる。
極夜渦の内側と外側の大気は交換しにくく、孤立した大気を形成する傾向がある。成層圏突然昇温によって極夜渦が大きく変形することが少ない南半球極域では、冬の間を通じて大気が孤立し、オゾンホールが発現しやすい素地をつくっている。それは、周辺の相対的に温暖な空気との混合がほとんど無く、極夜渦内の空気が冷却され続けて極端な低温状態になり、極成層圏雲が形成されその雲粒子表面での活発な化学反応によって、オゾン分子破壊を促進する過程が準備されるからである。
極夜ジェット気流

図に示したように、この偏西風は対流圏の亜熱帯ジェット気流とは孤立したジェット気流である。ジェットの中心は、中間圏では緯度40度付近に位置しているが、成層圏では緯度60度より極側の極夜域に位置している。極夜ジェット気流の呼び名は、下部成層圏までしか観測できなかった時代に、極夜付近に見られるこのジェットを対流圏の亜熱帯ジェット気流と区別して、極夜ジェット気流と呼んだことに由来する。
亜熱帯ジェット気流が夏冬を通じて両半球に存在するのに対して、極夜ジェット気流は冬半球にのみ存在し、夏半球では東風ジェット気流となる。熱容量が大きい海洋や陸地と対流圏とは、対流によって熱エネルギーの上下伝達が効率よくなされているが、さらに上方の成層圏・中間圏とは熱的つながりは弱く、太陽放射の季節変動に追従して中低緯度と極間の気温が大きく変化し、東西方向の風も温度風の関係を満たす形で東西風の交代が生じている。
極夜ジェット気流は、極夜渦と同じように北極より南極で強い傾向がある。図3には、北極と南極での東西風成分の大きさの分布を示した。北極での西風は最大でも50m/s程度であるが、南極での西風の最大は90m/sにも達している。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 一般気象学[第2版]。 東京大学出版会, 308頁。
新田 尚, 伊藤 朋之, 木村 龍治, 住 明正, 安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。