■一言解説
極地方(特に南極)の成層圏は冬季に著しく気温が低下する。そのため中・低緯度の成層圏では気体状態である物質でも、極上空では粒子化(エーロゾル化)するものがある。このようにして極の成層圏に発生するエーロゾルのことを極成層圏雲(PSC:polar stratospheric cloud)という。右の写真は、北極付近で撮影されたPSCの一例である。
■詳解
冬季に極上空の成層圏でエーロゾル化するのは、硝酸蒸気や水蒸気(高度20km付近でも5ppm程度は含まれる)であり、これらの物質がエーロゾル化して硝酸三水和物や氷晶などの粒子となる。下部成層圏の水蒸気量から考えると、水蒸気が飽和してPSCができる温度は−90℃以下であるが、硝酸が混入すると飽和点が下がって−80℃程度でもエーロゾル化するようになる。このような、エーロゾル化は北極より南極で著しい。というのは、南半球の中・高緯度は北半球のそれに比べて大陸が少なく地形の起伏による偏西風の蛇行が小さく、極の空気と低緯度の相対的に暖かい空気の混合効果が小さいため、南極上空の空気がより低温となるためである。実際、PSCの発生は北極より南極の方が圧倒的に多い。
PSCが最近注目を集めている背景には、オゾン破壊にPSCが大きな影響を及ぼしているためである。PSCが形成される際には、大気中の気体状態である窒素酸化物の濃度が著しく低くなる。またPSCを形成するエーロゾル粒子の表面では、クローンナイトレイト(ClONO
2)が塩素分子(Cl
2)と硝酸に変換される反応や五酸化二窒素(N
2O
5)がエーロゾルに取り込まれるなどの反応が進行する。また、空気中では分子が衝突してはじめて化学反応が起きるため、濃度が低いと反応が起こりにくいが、エーロゾルのような固体粒子が存在すると、その表面上ではある分子が吸着された後に別の分子が吸着されるということが起こり、反応が促進される。この結果、極の成層圏には水蒸気や窒素酸化物の濃度が著しく低く、塩素分子濃度が高い大気が冬季につくられる。春になり太陽放射が成層圏に届くようになると、塩素分子は塩素原子に光分解して急速にオゾンを破壊する連鎖反応を形成する。結果、オゾンホールは南極の春季に発生する。
参考文献
小倉 義光, 1999 : 一般気象学[第2版]。 東京大学出版会, 308頁。
新田 尚, 伊藤 朋之, 木村 龍治, 住 明正, 安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。