渦位のアノマリー
一言解説
アノマリー(anomaly)とは「偏差」という意味である。渦位のアノマリーとは、平均状態ないし全く空気の運動がない状態(コリオリパラメータはゼロではないので、渦位もゼロではない)といった基本状態と、実際の渦位の偏差のことである。偏差が正のときは正のアノマリー、負のときは負のアノマリーという。渦位のアノマリーは、下層の擾乱の発達減衰に深く関係している。
渦位のアノマリーとジオポテンシャルのアノマリーの関係は式(1)で表される。よって、与えられた渦位のアノマリーの分布からジオポテンシャルのアノマリーの分布が求められ、地衡風の関係式から風の分布、静力学平衡の式から温位の分布を求めることができる。
渦位アノマリーとジオポテンシャルアノマリーの関係式 (1)

詳解
軸対称の渦位アノマリーに伴う風と温位分布 渦位の場と速度・温位の場の関係
式(1)からわかるように、渦位は速度(または渦度)と温位の分布によって決まる。よって渦位の分布のみでは、速度と温位の分布の両方を求めることは不可能である。しかし、地衡風の関係式や静力学平衡の式を用いれば、速度の場と気圧の場そして気圧の場と温位の場を結びつけることができ、渦度の場から速度と温位の場を求めることができる(渦位の転換可能性の原則)。
図1は、地衡風の関係式の代わりに傾度風の関係式を用いて、圏界面付近に存在する軸対称の渦位の正及び負のアノマリーによって引き起こされる、速度と温位の分布に転換した結果である。アノマリーを算出する際の基本状態としては、@コリオリパラメータは一定、A温位は水平方向に一様、圏界面高度は10km、成層圏における温位の鉛直傾度は対流圏のそれの6倍、B運動はない、を設定している。図1から読み取れる特徴を以下に述べる。

(1)渦位のアノマリーが存在する範囲に比べて、誘起される風と温位の分布の範囲が広い。

(2)アノマリーにより誘起される循環は下層から上層まで同じ向きで、正(負)のアノマリーでは低(高)気圧性循環となる。

(3)大気の安定度が悪い(S0が小さい)ほど、アノマリーの影響は鉛直方向に大きくなる。安定度が良い(S0が大きい)ほど、アノマリーによって誘起される循環の鉛直スケールは小さい。

(4)渦位の正のアノマリー内部では、絶対渦度と成層安定度(S0)の両方が大きい(渦位の定義式と傾度風の関係式より明瞭)。負のアノマリーの内部では安定度は悪い。

(5)アノマリーの上下領域では、安定度のアノマリーは渦位のアノマリーと逆符号になる。正のアノマリーの上下領域では、周囲に比べて安定度が悪い。

渦位のアノマリーの進行と鉛直流
正の渦位アノマリーの進行により誘起される鉛直流の説明図 対流圏において、上層ほど西風風速が増している状況で、上層に正の渦位アノマリーが進行していると仮定する。そこで、アノマリーに相対的な流れを考える。下層では西風成分が小さいので、相対的な流れは東から西になる。正のアノマリーの領域では下層から上層まで温位は相対的に低い。アノマリーの西側では冷気が流れ出し、それを打ち消すように下降気流による断熱圧縮が起きて定常状態を保っている。アノマリーの東側では、暖気移流があってそれを打ち消すように上昇気流が起きている。負の渦位アノマリーの場合にはこれとは逆のパターンになる。
このため、地上付近にあった弱い低気圧が、上層の正の渦位アノマリーを伴った気圧の谷の接近によって、前方の上昇気流に促されて発達することが起きる。

参考文献
小倉 義光, 2000 : 総観気象学入門。 東京大学出版会, 289頁。