■一言解説
大気現象を見ると、地球を取り巻くジェット気流という惑星規模、温帯低気圧や移動性高気圧といった数千キロ(総観規模)スケールから10kmスケール程度の1つ積乱雲まで、様々な空間スケールがある。小さなスケールの現象や大きなスケールの現象は、別々に発現しているわけではなく、小さなスケールの現象はより大きなスケールの現象の中に埋め込まれる形で発現していると考えられている。このような大小のスケールの現象が互いに相互作用している構造を階層構造という。マルチ(多重)・スケールの階層構造ともいう。
■詳細
例として、図に梅雨期の降水の階層構造を示している。(a)は、梅雨期における日本付近の惑星(プラネタリー)スケールのジェット気流と気圧分布の模式図である。対流圏上部では、ジェット気流がチベット高原の北を通って本州北部を通過している。対流圏下部では下層ジェット気流が中国大陸から日本に伸びている。この下層ジェット気流に沿って地上天気図で見る梅雨前線帯が存在し、雲が多い(b)。
しかし、その雲は前線に沿って一様に分布しているのではなく、気象衛星の雲画像で見ると、幾つかのメソαスケールの低気圧に伴った雲の塊(クラスター)が並んだ形をして存在している。その雲のクラスターをさらに詳細に見ると、普通クラスターの北西部には連続的な比較的弱い降雨(層状性の雨)があり、南部には数個のメソβスケールの対流雲群がある(c)。その内部をさらに観察すると、個々のメソβ対流雲群は数個の積乱雲(メソγスケール)から成り立っていることがわかる(d)。
さらに個々の積乱雲の内部を調べると、積乱雲の発達段階にもよるが、上昇・下降流を含む激しい上下運動があることがわかっている(e)。それに加えて、大きさが10μmからmmの桁の水粒子(水滴、氷晶、あられ、雪など)があり、雲物理過程が活発に行われている。つまり右図の中に10^-5mから10^7まで12桁にまたがるスケールが含まれている。
このような階層構造は、日本付近の冬季に温帯低気圧の発達に伴う寒気の吹き出しや、熱帯海域におけるスーパー・クラウド・クラスターや偏東風波動など、多くの現象で認められている。
階層構造でもう一つ重要なことは、階層構造を形成しているスケールの間に強い相互作用があることである。例えば、メソβスケールの気象(図の場合はメソβ対流系)の構造と発達過程は、それを取り囲むメソαスケールの気象状態すなわち気温、湿度、風などの分布に大きく影響される。反対に、メソβスケールで起こる対流の集積効果はメソαスケールの気象状態を変える。こうして、あるスケールの気象を理解するためには、常にそれより小さいスケールの気象(内部構造)とともに、より大きいスケールの気象(環境)との関連も調べることが重要になる。