■一言解説

熱帯太平洋や熱帯インド洋のSSTや気圧、風の変動には明瞭な2〜3年周期がみられる(Nicholl, 1978ほか)。夏季インドモンスーンにも類似した周期変動がみられる。図1は1901〜1950年までのAIR(全インド降水量指標)のパワースペクトルを計算したものである。有意水準95%を超えるスペクトルピークは2,3年周期であることが一目瞭然である。Meehl(1987)はこの現象を熱帯成層圏準二年振動(QBO)と区別するために対流圏二年振動(TBO)と名付け、その現象の全体像を示した。
■詳解
Meehlの概念モデル
Meehlは一連の研究でTBOとモンスーンの関係のプロセスを探求した。図2は、その概念モデルである。
強いインドモンスーンの前の北半球冬季の状態から説明を始める(a図)。オーストラリアモンスーンは、比較的弱く、インド洋と中・東部熱帯太平洋ではSST正偏差、その間に挟まれたオーストラリア北方の海域では負偏差がみられ、インド洋と太平洋各々のウォーカー循環セルは弱まっている。インド洋西部とアフリカ東岸では対流活動が強く、中部太平洋でも活発な対流がみられ、ロスビー波応答を通じてアジア大陸上の500hPa面高度の正偏差、地表面温度の上昇が関係している。リッジの発達により積雪量も平年より少ない。西太平洋では東風偏差が冷たいケルビン波を励起し東へ伝播する。数ヵ月後には中・東部熱帯太平洋の温度躍層を上昇させる。インド洋西端の西風偏差は暖かいケルビン波を生み出し、春季の東部インド洋の温度躍層を深くする。春季(b図)も依然として対流加熱偏差により大陸上のリッジと高い地表面温度が維持されている。熱帯太平洋では冷たいケルビン波により温度躍層がさらに上昇し、夏季にかけてSST偏差の符号反転が生じる。一方、熱帯インド洋の温度躍層は西風偏差により西部で上昇、東部で下降が起きる。夏季(c図)になると、東西のウォーカー循環セルは強まり、インドモンスーンも強い。インド洋西部では浅い温度躍層によりSSTが負偏差になり、東西非対称構造が生まれる。熱帯太平洋では貿易風の強化で中・東部熱帯太平洋のSSTはさらに低下する一方、西部太平洋では温度躍層も深くなりSSTも上昇する。秋季(d図)では強いインドモンスーンにより地表面は湿潤化、温度は下降する。インド洋はSST負偏差が東部に拡がり、対流活発域は季節サイクルに従って南東方向へ偏移する。そして1年後の冬季(e図)にはa図と全く反転した状態が生まれることになる。アフリカ東部の対流活動の弱化とオーストラリアモンスーンの強化の複合効果によるテレコネクションでアジア大陸上のトラフが発達する。

彼の概念モデルではTBOの位相反転には風強制による海洋の力学的応答が重要な役割を果たしている。熱帯インド洋、太平洋共に温度躍層の上昇・下降がSST偏差形成に大きく寄与していることが前提となっている。TBOは年周期とENSOサイクルの非線形相互作用の結果として生じているという研究(Goswami, 1995)がある一方で、MeehlはアジアモンスーンがTBOに対し能動的な役割を果たしていると強調しつつも、一貫してENSOはTBOの極端なイベントに過ぎないと捉えているようである。ところが、最近の研究でTBOはENSOとは全く独立したメカニズムによって生じているという新しい考えが最近Chang and Li(2000)によって提出された。彼らはENSOは主に熱帯太平洋の大気海洋相互作用のプロセスに関与しており、その基本的メカニズムはモンスーンを必要としない。対照的にTBOメカニズムではアジア・オーストラリアモンスーンと隣接する熱帯海洋との地域間相互作用が本質的なものであると述べている。
Chang and Liの概念モデル
Chang and Li(2000)はTBOは陸面ー大気ー海洋相互作用のプロセスで生じるという立場から、図3で示されるような5つのbox modelを作り上げた。5つの地域(南アジアモンスーン地域、オーストラリアモンスーン地域、インド洋、西部熱帯太平洋/海洋大陸、東部熱帯太平洋)においてモデルの支配方程式は大きく異なっている。インド洋のSST偏差(T
I)の時間変化率は、風・蒸発フィードバックと東西及び鉛直方向の温度移流に依存すると仮定した。一方、西部熱帯太平洋/海洋大陸のSST偏差(T
w)の時間変化率には温度躍層の上下変動によるSST変化の項が追加されている。逆に、東部熱帯太平洋のT
Eの変化はSST偏差による潜熱フラックス、鉛直の温度移流、温度躍層の変動による温度移流で決定されている。
さらに南アジアとオーストラリアのモンスーンに伴う対流加熱(Q
I,Q
A)は大気境界層内の水蒸気収束に比例しており、比湿qはSSTの関数で表されている。彼らはSST正偏差が局所的な比湿の増加をもたらし、境界層内の水蒸気収束(∇・
Vq')を強め、結果的にQ
Iを増大させる正のインパクトと、海陸間の温度傾度を弱め、下層収束(∇・V')も弱めることによりQ
Iを減少させる負のインパクトを比較し、負のインパクトは相対的に小さく、SST正偏差の正味の効果はQ
Iを増大させる方向に働くとしている。
各地域で独自の支配方程式系を決定できれば、あとはbox model間のインターフェイスを作ればよい。具体的には、インド洋の海上風の東西成分(U
I)はアジアモンスーンに伴う対流加熱(Q
I)と海洋大陸のT
wの変化によるインド洋上のウォーカー循環セルの強弱に左右されると仮定した。元々、Q
Iを求めるに当たって、モンスーンーSSTフィードバックはモンスーン加熱が境界層内の水蒸気収束の変化に比例するとパラメタライズされているので
U
I = c'
1Q
I + c
2T
w = δ
1c
1T
I + c
2T
w
のように置き換えることができる。ここでδはモンスーン加熱の季節性を表しており、北半球の夏季はδ
1=1、他の季節はδ
1=0としている。つまり、北半球夏季のみT
IとU
Iが関係している。また、c
1やc
2は相互作用の係数で、値はスケール・アナリシスに基づき決定されている。
同様にして、西部熱帯太平洋の海上風の東西成分(U
w)は季節によって、アジアモンスーン、オーストラリアモンスーンの影響を交互に受けるという考えから、
U
w = c'
3Q
A + c
4Q
I = δ
Ac
3T
w + δ
Ic
4T
I
と仮定した。ここでδ
Aは北半球の冬季にδ
A=1、他の季節はδ
A=0としている。北半球冬季にオーストラリアモンスーンが強まれば(Q
A>)、西風偏差(U
w>0)が生じ、一方北半球夏季にアジアモンスーンが強いと(Q
I>0)、ウォーカー循環も強化され東風偏差(U
w<0)が生み出されるという考え方である。

彼らはアジア・オーストラリアモンスーン変動による影響に加えて、中部熱帯太平洋の東西風がSSTの東西傾度にも依存している効果を含め、モンスーンの完全な2年周期を再現している。その時の各海域のSST時間変化率に寄与する要因を調べた結果、インド洋ではモンスーン変動に伴う海上風の変化による蒸発フィードバック項が最も支配的である。プレモンスーン期ではSSTの上昇に寄与しているが、強い夏季モンスーンが始まると、逆に急激なSSTの低下に寄与している。蒸発冷却の効果は9月以降大幅に小さくなるが、次の年の6月初めまで持続している。一方、東部熱帯太平洋では、温度躍層変化による温度移流が最も重要である。その符号は夏季アジアモンスーンオンセットと共に反転している。南半球夏季のオーストラリアモンスーンの変動によっても、この項が大きく変化している。図3に示されているように、モンスーン循環の強弱でウォーカー循環が大きく影響を受けていると仮定しているので、東部熱帯太平洋のSSTは結果的に風応力の変化に伴う温度躍層の変動に大きく左右されることになる。また、湧昇流の変化による温度移流も二次的ながら寄与している。西部熱帯太平洋は両者の中間的な性格をもっており、温度躍層の変化と蒸発フィードバックが共に同程度の働きをしている。これらの項の寄与は、当然box毎の支配方程式やbox間のインターフェイスの設定の方法に依存していることに注意していただきたい。

図4は、Chang and Li(2000)に掲載されたTBOのメカニズムの模式図である。7月の熱帯インド洋のSST正偏差は南アジア域における下層の水蒸気収束の強化をもたらし、モンスーン活動は強くなる。モンスーン加熱はインド洋上の西風偏差を生成する一方で、ウォーカー循環を強化し、西部・中部熱帯太平洋上の東風偏差をもたらす。インド洋の西風偏差は主に蒸発ーSSTフィードバックにより、その海域のSSTを低下させる。中部太平洋の東風偏差は西部太平洋の温度躍層を深くし、SST及び亜表層水温を上昇させる。また、西部太平洋上の適度な強さの東風偏差は季節平均の西風と逆向きであり、スカラー風速の減少、蒸発量減少をもたらす。西部太平洋のSSTを上昇させるこれらの効果は、東からのcold advectionや湧昇によるSST低下の効果よりも圧倒的に優っており、西部太平洋のSST正偏差は北半球の秋季に持続し、南半球夏季のオーストラリアモンスーンを強めることになる。その間、西部太平洋のwarmingはインド洋との間のワーカー循環セルを強化し、インド洋の西風偏差の卓越に寄与する。この西風偏差はインド洋のSST負偏差が次の年まで持続するのを助け、結果的に次の夏季モンスーンの弱化をもたらす。北半球冬季の強いオーストラリアモンスーンに伴う西風偏差は湧昇の抑制、蒸発量の減少を通して西部太平洋のSST正偏差を再び強めることにより、太平洋側のウォーカー循環セルを強化し東部太平洋のSST負偏差を維持している。
このように、Chang and Li(2000)のメカニズムでは、東部太平洋は受動的な役割でしかなく、ENSOとは全く独立した大気海洋結合現象としてTBOを捉えていることがわかる。この点でMeehlとは大きく異なるが、両者ともモンスーンがTBOに対し能動的な役割を果たしているという点では共通している。
参考文献
川村 隆一,2003:モンスーン研究の最前線.気象研究ノート,
204, 128−134.