■一言解説

積乱雲の中では、活発な気流による水滴や氷晶の上下運動によって、電荷の分離と蓄積が進行して急激に電位差(電圧)が大きくなり、やがてその電位差を解消すべく放電が起こる。これが雷である。放電は、積乱雲内及び積乱雲間で発生する雲放電と、積乱雲と地表間で発生する放電(落雷)がある。放電の際には、雷光、雷鳴、電波放電が観測される。雷は、アフリカ、南アメリカ、東南アジアの低緯度地域や北アメリカの中央地域で高い。積乱雲内の電気的構造は図1に示したように、上部に正電荷、下部に負電荷分布し、降水の強い地域では負電荷地域の下に正電荷が分布する3極構造となる。
■詳解
電荷の3極構造の形成過程
積乱雲内に見られる電荷分布を作り出す過程に関して最も有力な説は、次に述べる着氷説である。水蒸気を含む空気塊は上昇する中で冷却され、気温が−20℃以下の積乱雲上部では氷晶が形成され正に帯電する。この氷晶が他の氷晶や過冷却水滴を付着して雹にまで成長して落下する。その際、過冷却水滴、氷晶、霰の相互作用により、積乱雲下部の−10℃以下の低温領域では霰は負に、−10℃以上の高温域では正に帯電する。積乱雲の発達期には上昇気流が強いために霰は積乱雲上部とどまるが、積乱雲の成熟期には上昇流と下降流の対が形成され、霰は下降流によって−10℃より高温の領域の高度まで落下し、3極構造が作り出される。よって、発雷は積乱雲の雲頂が−20〜−40℃の高度にまで発達したときに発生する。
負極性落雷と正極性落雷
積乱雲と地表間で起こる落雷には、積乱雲下部の負電荷が地表に放電する負極性落雷と、積乱雲上部の正電荷が地上に放電する正極性落雷がある。日本の夏季の落雷は90%以上が負極性落雷であるが、北陸地方の冬季では正極性落雷が30%以上起こっている。アメリカ中西部では夏季に雷が頻繁に発生するが、その10%程度は正極性落雷で、中間圏の雷放電は正極性落雷によって引き起こされていることが明らかになった。
負極性落雷は、積乱雲下部の負電荷と地表に誘導された正電荷の間で起こる放電現象である。放電の流れは次に述べる通りである。@積乱雲下部の局所的な強い電場からストリーマ(線状放電)が地表に向かって伸び、約20ミリ秒で地上に達する。A地上にまで伸びたストリーマを通って地上から積乱雲に向かって約60μ秒の短時間で10〜30kAという強い放電(帰還電撃)が起こる。Bその後数10m秒の間隔で地上から積乱雲への放電が繰り返される(後続電撃)。おおよそ1回の落雷につき数回の後続電撃が起き、放電される電荷の総量は1〜10C程度である。
正極性落雷は、後続電撃がなく、放電電流が約10〜200kAと強く、放電時間が200〜2000μ秒と長くて、放電される電荷総量は20〜300Cと非常に大きい。また、積乱雲内での放電路が地表面に平行に長く伸びることが特徴である。
ブルージェット、スプライト、エルブス

雷放電には落雷と雲放電に加えて、最近積乱雲上方の成層圏、中間圏、熱圏下部・電離圏でも放電現象が発見された。これにより、放電現象は地表から電離圏まですべての高度で発生することが明らかになった。積乱雲上方への放電には3種類あることが分かっている。1つ目は積乱雲上端から高度40〜50kmまでの成層圏でビーム状に発光するブルージェット、2つ目は中間圏の高度50〜90kmで発光するスプライト、そして最後に中間圏上部から下部熱圏・電離圏の90〜100kmで発光するエルブスである(図2参照)。
成層圏で起こるブルージェットは、積乱雲上端から上方に開いた円錐状のビームとして発光し、発光時間は約200m秒で、色は青色である。中間圏で発生するスプライトは、多数の円柱及びにんじん状のものが並んだ形態など様々であり、高度65〜75kmで最も明るい。発光時間は数m〜数10m秒で、色は赤い。スプライトは大部分が正極性落雷の際に出現する。中間圏界面付近で発生するエルブスは、水平規模は300kmと大きく、発光時間は1m秒以下と非常に短い。色は赤で、約90kA以上の強い正極性、負極性落雷の際に出現しやすい。
雷光、雷鳴の発生過程
夏季、冬季とも雷の起こり方は共通だが、冬季の日本海では雲頂の低い積乱雲で発雷する。放電の際には、空気中を一時的に多くの電流が流れるため、非常に高温になり発光する。それが稲妻(雷光)である。また、電気が流れにくいところを通ることによって、熱が生じる。空気も電気が流れにくい物質なので、発雷に伴い空気は熱のために急激に膨張して周囲の空気を圧縮する。圧縮された空気は、再び膨張して空気が振動するため音が生じる。これが雷鳴である。音波の伝播速度約340m/s(気温15℃)と光速との差が、雷光を観測してから雷鳴が聞こえるまでの時間差で、その時間差を測って音速で乗じれば、積乱雲までのおおよその距離がわかる。
参考文献
新田 尚, 伊藤 朋之, 木村 龍治, 住 明正, 安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。