■一言解説
同じ緯度ならば、太陽から受け取る放射エネルギーは同じになる。しかし、陸地と海洋では、前者の方が暖められやすく、陸上の空気の方が温度は上がる。すると、陸地では上昇気流が卓越し、相対的に温度の上がらない海洋では下降気流が卓越する。このようなことから、熱帯地方では、図1(a)に示したように、アフリカ大陸、南アメリカ大陸、インドネシア海洋大陸では上昇気流、太平洋東部、インド洋西部そして大西洋では下降気流が卓越し、東西方向の空気の循環が起こっている。この東西循環をウォーカー循環と呼ぶ。
■詳解
熱帯地域の地表面の温度差は、陸地と海洋間だけでなく、同じ海洋でも海面水温分布は一様ではない。赤道太平洋では、貿易風(偏東風)によって表面の暖水が西太平洋に集められ、東太平洋では西に運ばれる海水を補うために深海から冷水が湧き出し、東西に海面水温の差ができる。当然、暖かい海面上の大気の方が温められやすい。それに対して、インド洋では、下層で比較的に西風が卓越するため、アフリカ大陸近海では海面水温は低く、インドネシア近海で高くなる。このような海陸分布と海面水温分布の差のために、大気の加熱されやすい西太平洋やインドネシア海洋大陸、アフリカ大陸、南アメリカ大陸では対流活動に伴う潜熱加熱も加わって上昇気流が卓越し、海面水温の低い東太平洋、西インド洋、大西洋は、先の地域で上昇した大気が下降する地域(補償下降流域)となる。こうして、熱帯地域には対流圏全体に及ぶ東西方向の大気循環(ウォーカー循環)が存在することになる。図1(a)は、平均的なウォーカー循環の模式図である。
この循環の駆動には、海面水温の東西非一様性も関わっていることから、エルニ
ーニョによる影響も大きい。エルニーニョ時には、赤道太平洋での海面水温の高
い地域が平年よりも東に広がるために、大気の上昇気流域が東に移り、東西循環
の上昇下降気流域の移動が起きる。図1(b)は1982〜83のエルニーニョ時における
東西循環の様子を示している。平年の状態を示した(a)に比べて、太平洋上の上昇
流域は日付変更線の東に移って、平年では上昇気流地域であったアフリカ大陸は
逆に下降気流域に、逆に下降気流域であった南アメリカ大陸東岸では上昇気流域
になっている。図1(a)で見られたアマゾン川流域、インドネシア海洋大陸上の上昇気流はエルニーニョ時には見られない。実際、エルニーニョ時にインドネシアでの旱魃、チリでの洪水といった現象が起きることはよく言われることである。熱帯地域での海面水温の異常(例:エルニーニョ)は、東西循環(ウォーカー循環)の状態に異常をも
たらし、熱帯地域での天候を大きく変化させてしまうのである。
参考文献
新田 尚, 伊藤 朋之, 木村 龍治, 住 明正, 安成 哲三, 2002 : キーワード 気象の事典。 朝倉書店, 520頁。